国土交通省から公示地価が発表され、全国ベースで住宅地が9年ぶりに上昇しました。アベノミクスや日銀のマイナス金利政策がようやく効果を発揮したようにも見えますが、その実情は果たしてどうなるのでしょうか。

住宅地の上昇率は0.022%とごくわずか

公示地価は毎年1月1日時点の全国の地価を不動産鑑定士が調査し、国交省が取りまとめて発表しているものです。土地取引や税金計算などの基準と位置づけられています。今年は全国約2万6000地点を対象に調査が行われました。
2017年の全国平均では、住宅地の地価が前年比で2008年以来9年ぶりに上昇に転じました。2008年といえばリーマン・ショックの直前で、不動産市場ではいわゆる「ミニバブル」で沸いていた時期です。それ以来、停滞していた日本の地価がようやく浮上してきたということでしょうか。
とはいえ上昇率は0.022%とごくわずかで、小数点第一位で四捨五入すると0.0%だ。さすがにこの数値で「上昇した」というのがはばかられたのか、同省の発表では「横ばい」と表現されています。

地方圏のなかで地価上昇の勢いが増す「札幌・仙台・広島・福岡」

いずれにせよ住宅地の全国平均がマイナス圏を脱したことは確かです。ただし、地方圏は未だに0.4%のマイナスとなっています。前年よりマイナス幅は0.3%縮小したものの、これで25年連続の下落です。
今回、地方圏のなかで地価上昇の勢いを示したのは、札幌市、仙台市、広島市、福岡市の地方四市です。四市では住宅地の地価が上昇に転じた2014年以来、上昇率が伸び続けており、今年も前年より0.5%高い2.8%の上昇でした。
特に仙台市の住宅地は4.0%と高い上昇率となりました。同市では2015年12月に地下鉄東西線が開業し、交通利便性が高まった駅周辺で一戸建てやマンションの需要が旺盛になっているといいます。
また、上昇率3.5%となった福岡市でも、人口増加にともなって地下鉄駅周辺などで住宅地の上昇幅が拡大した地点が見られます。

都心部では住宅地の地価上昇が早くも息切れ?

一方、三大都市圏はというと、東京圏こそプラス0.7%で前年の上昇率より0.1%伸びましたが、大阪圏は0.0%(前年は0.1%)で横ばいに転じ、名古屋圏も前年より0.2%低いプラス0.6%にとどまりました。三大都市圏平均の上昇率は前年と同じ0.5%です。
東京圏の住宅地では東京都区部の上昇率が3.0%になるなど、都心に近いエリアほど上昇率が高くなっています。ただし千代田区や中央区などの区部都心部では前年の4.6%から今年は4.2%に、品川区や目黒区などの区部南西部では同じく2.9%から2.8%に、それぞれ上昇率が縮小しました。
都心部ではマンション価格が高騰し、昨年ごろから売れ行きの鈍化や供給の低迷が鮮明になっています。デベロッパーによるマンション用地の獲得競争が一服し、地価の上昇に歯止めがかかりつつあるようです。

大阪市や京都市の中心部、名古屋市の周辺で高い上昇率

大阪圏でも中心部では比較的高い上昇率となっており、大阪市中心6区では3.4%、神戸市東部4区では1.8%、京都市中心5区では1.6%上昇しました。大阪と京都の上昇率は前年より高くなっています。
大阪市ではマンション価格の上昇が東京都心に比べて緩やかなこともあり、物件の販売は堅調だ。福島区をはじめ中心部でのタワーマンション供給も活発になっており、地価の上昇傾向が続いています。また、京都市では上京区など中心部で高額なマンションが分譲されており、全般的な用地不足から地価の上昇圧力が強まったようです。
名古屋圏の住宅地では、名古屋市の上昇率が1.2%にとどまりましたが、長久手市が3.1%、豊田市が2.7%など周辺エリアで高い上昇率となりました。周辺部は名古屋市に比べ住宅価格に割安感があることに加え、長久手市でイオンモールやイケアなどの大型商業施設の開業が相次いで人気が高まっていることも、地価上昇につながっているとみられます。

高い上昇率を維持する都市部の商業地

住宅地よりも地価の上昇が進んでいるのが商業地です。東京圏では商業地の上昇率が3.1%と前年より0.4%拡大しました。区部都心部では6.8%の上昇となっており、なかでも再開発や店舗のリニューアルが進む中央区銀座では29.0%上昇した地点も見られました。
全国の商業地で最も高い上昇率となったのは、大阪市中央区道頓堀1丁目の「づぼらや」で41.3%アップしました。大阪市の商業地は全国の上昇率トップ5を独占しています。中国・韓国や東南アジアなどからの訪日外国人が増え、ホテル需要が高まっていることが要因として挙げられます。
このほか京都市東山区の祇園四条駅周辺でも、観光客の増加による店舗やホテル需要の強まりから商業地が29.2%にアップ。名古屋市中村区の名古屋駅東口では大規模再開発ビルの竣工が相次ぎ、観光客やビジネス客の増加から29.0%のアップとなっています。
こうしてみると東京都心部の住宅地など一部エリアで地価上昇に歯止めがかかりつつあるが、商業地を中心に都心部では地価の上昇傾向が続いています。東京オリンピックの開催を控えたこれからの時期に、地価がさらに上昇するか下落に転じるかは、トランプ相場をはじめ波乱含みの国際情勢や国内景気の動きに左右されそうです。