節税対策での利用に警鐘

国税税側と相続人の評価は約4倍の開きがある
評価方法
(購入額)
東京都内の
マンション
川崎市内の
マンション
合計
相続人 路線価 約2億円 約1億3千万円 約3億3千万円
購入額 約8億3700万円 約5億5000万円 約13億8700万円
国税側 不動産鑑定 約7億5400万円 約5億1900万円 約12億7300万円

「路線価に基づく相続財産の評価は不適切」とした東京地裁判決が波紋を広げている。
国税庁は路線価などを相続税の算定基準としているが、「路線価の約4倍」とする国税当局の主張を裁判所が認めたからだ。路線価は取引価格の8割のため節税策として不動産を購入する人もいる。だが相続税の基準となる路線価と、取引価格に大きな差があれば注意が必要だ。
8月末の判決で東京地裁が路線価に基づく相続財産の評価を「不適切」としたのは、2012年6月に94歳で亡くなった男性が購入していた東京都内と川崎市内のマンション計2棟。
購入から2年半〜3年半で男性が死亡し、子らの相続人は路線価などから2等の財産を「約3億3千万円」と評価。銀行などから借り入れもあったため、相続税額を「ゼロ」として国税側に申告した。だが男性が購入した価格は2棟で計13億8700万円で、路線価の約4倍だった。国税当局の不動産鑑定でも2棟の評価は約12億7300万円で、路線価とはかけ離れていた。
このため国税側は「路線価による評価は適当ではない」と判断。不動産鑑定の価格を基に「相続税の申告漏れにあたる」と指摘し、相続人全体に計約3億円の追徴課税処分を行なったが、相続人らは取り消しを求めて提訴していた。
今回の判決では「特別の事情がある場合には路線価以外の合理的な方法で評価することが許される」と指摘。今回は「近い将来発生することが予想される相続で、相続税の負担を減らしたり、免れさせたりする取引であることを期待して実行した」と認定し、国税の主張する不動産鑑定の価格が妥当とした。

原告の相続人らは不服として控訴している。
相続税に詳しい佐藤和基税理士は今回の判決を受け、「金額の大きな相続では、手法やリスクの検討をこれまで以上に慎重にしないといけなくなる」と懸念する。税務訴訟に強い平川雄士弁護士も「正当な不動産投資をも萎縮させる可能性がある。国税当局は通達を適用する基準を明確にすべきだ」と指摘している。