納税資金対策は、相続税の支払いのための必要資金をあらかじめ見積もり、納税のための原資や納税方法にめどをつけておくための対策です。バブル期には地価の高騰で、高額な相続税に苦しむ家庭が多発し、社会問題にもなりました。財産は遺したものの自宅や不動産など換金しにくいものばかりで、相続税の納付期限は迫っているけれど支払うあてがないなど、遺された家族が相続税の支払いで苦しむことのないようにしっかり対策しておきましょう。

(1)納税資金の過不足の確認

まず、現状で納税資金準備が足りているかどうかを確認します。
現時点で相続が発生した場合の相続税を概算計算し、現時点での換金可能財産(預貯金のほか、運用資金や生命保険契約による相続人の死亡保険金受取額も含む)と比較します。
換金可能財産が相続税の概算額を上回っていれば問題はありません。
不足している場合には納税資金の確保のための対策が必要です。

(2)生命保険

相続税の納税資金準備は、預貯金で準備するほか、生命保険で準備する方法があります。生命保険での納税資金準備には、以下のようなメリットがあります。

①すぐに資金化できる
相続が発生した場合には、被相続人の預貯金口座は凍結されます。遺言書がない場合には、相続人間で遺産分割協議を行い、遺産分割協議書に全員が署名押印した後でないと預貯金口座から資金を引き出すことはできません。
生命保険であれば、保険事故(被保険者の死亡)によりすぐに死亡保険金を受け取ることができます。

②レバレッジ効果が得られる
一般的に、生命保険は払込保険料総額よりも保険給付金額のほうが高くなります(レバレッジ効果)。レバレッジ効果は、被保険者の年齢が低いほど高くなりますので、少ない保険料で高い納税資金確保を図ることが可能となります。
高額な相続税が予想される方の場合は、40代・50代から納税資金対策を意識して生命保険への加入を検討する必要があります。

③生命保険金の非課税限度額
被相続人が保険料を負担した生命保険金を相続人が受け取った場合には、みなし相続財産として相続税の課税対象となります。
しかし、生命保険金には相続人1人あたり500万円の非課税枠が設けられています。例えば、相続人が配偶者と子供3人の場合には、受け取った保険金のうち、500万円×4人=2,000万円は、相続財産となりませんので、相続税がかからないことになります。死亡保険金に対しる相続税の影響も考慮して保険金額を設定する必要があります。

(3)物納対策

相続税は金銭で一時に納付することが原則ですが、一定の要件を満たす場合には延納や物納を選択することができます。

①延納とは
相続税は金銭で一時に納付することが原則ですが、金銭で納付することを困難とする事由がある場合には、延納により納付することができます。
延納の主な要件は以下のとおりです。
●相続税が10万円を超えること
●金銭で納付することを困難とする事由があり、かつ、その納付を困難とする金額の範囲内であること
●延納税額および利子税の額に相当する担保を提供すること
(ただし、延納税額が50万円未満で、かつ延納期間が3年以下である場合には担保は提供不要)
●延納しようとする相続税の納期限または納付すべき日(延納申請期限)までに、延納申請書に担保提供関係書類を添付して税務署長に提出すること

②物納とは
延納によっても金銭で納付することを困難とする事由がある場合には、一定の相続財産による物納が認められれいます。
物納の主な要件は以下のとおりです。
●延納によっても金銭で納付することを困難とする事由があり、かつ、その納付を困難とする金額を限度としていること
●物納申請財産は、納付すべき相続税の課税価格計算の基礎となった相続財産のうち、次に掲げる財産および順位で、その所在が日本国内にあること
(第1順位)国債、地方債、不動産、船舶
(第2順位)社債、株式、証券投資信託または貸付信託の受益証券
(第3順位)動産
●物納に充てることができる財産は、管理処分不適格財産に該当しないものであること、および物納劣後財産に該当する場合には、他に物納に充てるべき適当な財産がないこと
●物納しようとする相続税の納期限または納付すべき日(物納申請期限)までに、物納申請書に物納手続関係書類を添付して税務署長に提出すること

③物納対策の検討
物納制度を利用する場合は、上記のように
●延納によっても金銭で納付することを困難とする事由がある場合
●その納付を困難とする金額を限度としていること
●物納に充てることができる財産があること
●申告期限までに物納申請書を提出し、税務署長の許可を受けることの要件のすべてを充足する必要があります。

「金銭納付が困難である金額」があるかどうかは、被相続人から相続した金銭だけでなく、相続人自身の預金があっても物納は許可されません。まとまったお金がなくても、一定の収入があり、延納ができる状態であれば物納は認められません。
したがって、物納を選択するためには、現在も将来も金銭のない相続人に、土地を相続させる等、財産分割を工夫する必要があるため、あらかじめ準備・検討しておかなければなりません。

安心相続相談所ほか編(2014)「相続の不安をなくす生前対策とその進め方」小谷野公認会計士事務所監修、日本法令.より引用