贈与税のかかるもの・かからないもの

(1)贈与税のかからないもの

基本的に贈与税は、贈与を受けたあらゆる財産が課税対象となりますが、中には政策上の配慮等の理由から、贈与税がかからないものもあります。
以下では、その代表的なものをあげています。

【①法人からの贈与】
法人から財産を贈与された場合には、贈与税はかかりません。
これは、法人には相続という概念がなく、所有する財産が相続税の対象とならないことから、贈与税を相続税の補完税として課す必要がないこと、および受贈者に対しては享受した経済的利益を所得税として課税するため、贈与税を課す必要性がないこと等を考慮したものです。
ただし、所得税の対象となりますので注意してください。

【②相続が発生した年の贈与】
相続が発生した年に行われた贈与において、贈与税は非課税とされていますが、代わりに相続税がかかります。
なぜなら、相続開始前3年間の贈与は相続財産に足し戻すものとされているからです。
なお、相続が発生した年の贈与であっても、受贈者が当該相続に関して相続財産を取得しない場合は、相続税が課税されないため、原則どおり贈与税が課税されます。

【③社交上必要な香典等】
社交上必要な香典、花輪代、盆暮の中元や歳暮、祝い金、見舞金などについては、社会通念上必要と認められる範囲内の金額については、贈与税が非課税とされています。

【④扶養義務者からの生活費・教育費の贈与】
扶養義務者からの生活費・教育費の贈与で、通常必要と認められる金額については、贈与税がかかりません。
日常生活に必要な支出に対してまで贈与税を課すのは適当ではないと考えられるためです。
ただし、あくまで生活費・教育費に使われることが前提であり、もし貯金したり不動産を購入したり等、他の目的に使用した場合は、たとえ生活費や教育費の名目であっても、贈与税が課税されます。
ちなみに扶養義務者とは、配偶者、直系血族、兄弟姉妹、家庭裁判所の審判を受けて扶養義務者となった三親等内の親族、三親等内の親族で生計を一にする者等を指します。

【⑤公職選挙法の候補者が贈与された財産】
公職選挙における候補者(個人)が選挙運動に関して受領した財産上の利益で、公職選挙法の規定により報告されているものについては、贈与税が課税されないこととされています。
なお、政治資金規正法の規制を受ける法人格のない政治団体(政党等)が個人から贈与(政治献金)を受けた場合についても、当該団体が公益目的事業を行なっており、かつ、取得財産を政治資金に供することが確実である場合は、贈与税は課税されません。

【⑥公益事業用財産の贈与】
宗教、慈善、学術その他の公益目的事業を行う者で一定の要件に該当するものが贈与により取得した財産のうち、当該公益目的事業の用に供されることが確実なものについては、贈与税が課税されません。
これは、公益事業の育成・発展を阻害しないように配慮されたものと考えられます。
ただし、贈与後2年以内に公益目的事業の用に供されない場合には、贈与税が課税されます。
なお、⑤の政治団体(政党等)が受ける贈与が非課税となるための条件は、この公益目的事業用財産の贈与が非課税となる条件と実質的にほぼ同じと考えられます。

【⑦心身障害者共済制度に基づく給付金の受給権】
心身に障害のある方に関し、地方公共団体が条例に基づき実施する一定の共済制度について、当該制度に基づき与えられる給付金を受ける権利については、その取得者である心身に障害のある方や一定の扶養者に対し、贈与税または所得税は課税されないこととされています。

【⑧離婚により取得した財産】
離婚時の財産分与等は、夫婦で一緒に稼いだ財産を分けているに過ぎないという考え方にのっとっています。
そのため、例えば離婚により奥さんが婚姻中に築いた財産の清算として財産分与を受けても、それは贈与として扱われません。
離婚時の慰謝料の支払いや、離婚後の相手の生活費等の補償についても同様です。
ただし、その分与に係る財産の額が婚姻中の夫婦の協力によって得た財産の額その他一切の事情を考慮してもなお過大であると認められる場合は、その部分については贈与税が課税されます。
また、租税回避のためと認められる離婚を通じた財産分与も、贈与として取り扱われます。

【⑨債務弁済が困難な状況下での債務免除】
債務免除等による利益を受けた場合、通常であれば贈与があったとみなされます。
しかし、債務者が資力を喪失して債務を弁済することが困難な場合であって、(i)債務の免除を受けたときや、(ii)債務者の扶養義務者に債務の引受けまたは弁済をしてもらったときは、債務の弁済をすることが困難な部分の金額について、贈与により取得したものとみなされず、贈与税がかかりません。

(2)贈与税のかかるもの(みなし贈与)

形式的に贈与でなくとも、経済的な実態が贈与と似ていることから、贈与とみなされ、贈与税の課税を受けるものがあります。
これを「みなし贈与」といいます。

【①低額譲渡】
財産を時価よりも著しく低い金額で売買した場合、安く買ったほうは、時価との差額を贈与されたものとみなされます。
したがって、例えば家族間だからといって、いい加減に決めた価格で資産を譲渡等するのはリスクがあります。
特に取引額が大きい不動産や株取引を行う場合には、予想外の課税を受けるリスクがありますので、専門家による鑑定や算定を依頼するなど、細心の注意が必要です。
なお、「著しく低い金額=時価の1/2未満」と思われる方もいるかもしれませんが、相続税法上そのような規定はありません。
実際には、個々の事例ごとに判断することになりますので、「時価の1/2以上だから大丈夫だ」などと安易に判断しないようにご注意ください。
以下、低額譲渡の場合の贈与額の計算を実際にやってみましょう。

【具体例】
父親が、取得価額2,000万円、時価5,000万円の自社株式を、息子に3,000万円で売却しました。
この場合、みなし贈与はいくらになるでしょうか。

【解答】
時価が5,000万円のものを3,000万円で譲渡しているため、その差額2,000万円が父親からの贈与として課税されます。

【②生命保険や定期金の受け取り】
他人が掛け金を負担した生命保険金や満期保険金を受け取った場合には、受け取った側は贈与を受けたものとみなされます。
ただし、掛け金を負担したのが被相続人である場合は、贈与額ではなく相続税の課税対象となります。
生命保険等は受取人が指定されている者がその存在をよく知らなかったりするなど、気付かないところで贈与に該当してしまっている、いわゆる「うっかり贈与」になることが多いです。
受取人には、あらかじめきちんと説明をしておくことが肝要です。
以下、生命保険の満期保険金についての具体例です。

【具体例】
父親が、子供を受取人とした保険に加入し、毎年保険料を支払っていましたが、満期が来たため子供が満期保険金を受け取りました。
この場合のみなし贈与の額はいくらになるでしょう。
なお、払込保険料の総額は4,000万円、満期保険金は5,000万円とします。

【解答】
保険料の全額を父親が負担しているため、子供が受け取った満期保険金の全額5,000万円が贈与とみなされます。

【③同族会社の株主間贈与】
同族会社で以下の行為があった場合に、同族会社の株式の価値が増加したときは、その株主は得をしていることになりますので、当該価値の増加分を、それぞれ次に揚げる者から贈与を受けたものとみなします。
(ア)会社に対し無償で財産の提供があった場合 → 財産を提供した者
(イ)時価より著しく低い価格で現物出資があった場合 → 現物出資をした者
(ウ)対価を受けないで会社の債務の免除、引受けまたは弁済があった場合 → 当該債務の免除、引受けまたは弁済をした者
(エ)会社に対し時価より著しく低い価格の対価で財産の譲渡をした場合 → 財産の譲渡をした者

【具体例】
父親が、子供の100%保有会社に対して現金を1億円贈与した場合、みなし贈与の金額はいくらになるでしょう。

【解答】
1億円-法人税額相当額
※会社側では、1億円の利益に対して法人税が課せられますので、株式の価値の増加は法人税額相当控除後の金額になります。

【④無利息の貸付等】
夫婦や親子等、特殊な関係がある者同士で、無償または無利息で土地、家屋、金銭等の貸付があった場合には、地代、家賃、利息に相当する利益相当の贈与があったものとされています。
ただし、その金額が少額である場合や課税上弊害がないと認められる場合には、税務署側は強いてこの取扱いをしないことができるとされています。

【⑤債務免除等】
債務の免除や引受け、弁済を自分以外の誰かにしてもらった場合には、その分、免除額を受けた人は得をしていることになりますので、その金額の贈与が行われたものとみなされます。
ただし、その債務免除等を受けた債務者が資力を喪失しており、債務を弁済することが困難な状況等であれば、贈与とみなされないこととされています。

【⑥共有持分の放棄】
不動産等の共有財産について、共有者の誰かが自分の持ち分を放棄した場合には、当該持ち分は他の共有者が、それぞれ持ち分割合に応じ贈与により取得したものとみなされます。

安心相続相談所ほか編(2014)『相続の不安をなくす生前対策とその進め方』小谷野公認会計士事務所監修、日本法令より引用