インバウンド(訪日外国人)需要の回復で、シェアハウス市場に活気が戻る。
並行して日本人の入居も安定しており、事業者が運営棟数を拡大する動きが出てきている。
物件数5.4%増
シェアハウス市場が活況だ。
一般社団法人日本シェアハウス連盟が公表した「シェアハウス市場調査2024年度版」によると、物件数は2023年度比で5.4%増と増加傾向にある。
需要については、インバウンドの影響が出てきている。
円安傾向を背景に、24年の訪日外国客数の推計値は3686万人と前年比で47.1%増加。
同連盟は、宿泊施設の稼働率や宿泊価格の上昇を受け、長期旅行の訪日外国人が滞在費を抑える目的で、シェアハウスを利用する傾向があると分析した。
入居者属性逆転
「25年3月下旬時点で、外国人入居者が7割に上った。21〜22年にかけては日本人入居者と割合が逆転。25年に入ってからも外国人入居者は増加傾向にある」と話す会社もある。
同社は219棟4800室のシェアハウスを運営。
25年3月末時点の平均稼働率は9割を超える。
外国人入居者の特徴として、留学生やワーキングホリデーで来日する属性が多かった。
24年度は、長期滞在の観光需要が高まったという。
担当者は「観光目的の外国人入居者が増えたことで、交通利便性の高い東京23区内の物件は、家賃が比較的高いにもかかわらず高稼働で推移している」と話す。
日本人からの需要も根強い。
23年以降、全体の問い合わせは好調に推移しているとし、25年2月の問い合わせ件数は2504件。
24年同月比で約21.6%増加した。
同社は、24年の1年間で運営棟数を10棟500室増やした。
今後も、年間100室の純増を目標とし、特に専有部に水回りを完備した物件ブランド「アパルトマン」の供給に注力する。
入居者属性にかかわらず、高いニーズがあるためだという。
同ブランドは、中古物件を再生し展開する。
「元社宅物件の仕入れを強化していく」
名古屋、稼働上昇
56棟1148室を運営する会社は、事業を展開する北海道から大阪府までのすべてのエリアで稼働率が高まっている。
担当者は「外国人からの問い合わせ増加が、物件全体の高稼働率に結び付いている」と話す。
東京都、大阪府、札幌市にある物件の24年度の平均稼働率は9割で、前年比で横ばい〜5ポイント増加した。
「特に東京都の物件への問い合わせ数が増加した。インバウンドが稼働率を底上げしている」
名古屋市の物件の稼働率は同8割と、前年度比10ポイント増加した。
入居者のうち、外国人の割合が10ポイント弱高まり28%を占めるという。
担当者は「名古屋市に流入する外国人は、留学の滞在理由が多そうだ。一方、東京都は住居ニーズ、札幌市は住居および観光ニーズが高い傾向にある」と分析する。
低賃料帯に反響
大阪市の物件で、外国人需要の高まりを実感すると話す会社もある。
寮事業本部シェアハウス事業部の担当者は「大阪市で展開する1棟に関しては、24年に外国人からの問い合わせが5割に上った。23年以前は2割程度だった」と話す。
23年以前と比較し、ワーキングホリデーと観光の割合が突出して増えたという。
反響増加の理由を担当者は「大阪市は、インバウンドの受け皿となるホテル・物件が足りていないようだ。これに加えて、物件が立つエリアの単身者向けの家賃相場よりも、当シェアハウスが2万円ほど安い賃料帯であることから流入してきたのでは」と分析した。
物件全体の外国人入居者の特徴として、欧米出身者が多いという。
滞在期間はおおむね1年未満で、1〜3ヶ月、3ヶ月以上の割合が半々だ。
国籍を問わず、24年1年間の申込件数は、前年比で20%増と好調だ。
24年の年間稼働率も平均90%と、前年比で5ポイント高まっている。
同社は24年、埼玉県川口市で元社員寮を再生させた1棟75室の物件をオープン。
25年4月には満室稼働となる見込みだ。
訪日理由が多岐に
外国人入居者の属性にも変化があった。
国際交流をコンセプトにした会社は、「24年の月間外国人リピーター数が13%と、前年の月間数と比較して4ポイント増加。新型コロナウィルス5類移行により、ワーキングホリデーを利用して日本に入国できる国が増えていき、訪日理由の幅が回復している傾向がある」。
同社物件の外国人入居者の属性は、語学学生が半数以上を占める。次いで、ワーキングホリデー、交換留学、就職、観光となる。
同社は24年度に、京都府と宮城県仙台市に初進出し、地方展開に乗り出している。
外国人留学生が多い都市での展開を強化していく方針を掲げる。
インバウンド需要の中でも、宿を確保するニーズが短期入居可能なシェアハウスへと広がっている点が特徴的だ。