該当項目差し止め

最高裁は、賃貸住宅の家賃債務保証契約の条項で、滞納し、かつ一定の条件を満たす場合、物件を明け渡したとみなす項目を違法と判断。
同条項の差し止めを命じる判決を2022年12月12日に下した。
消費者団体のNPO法人消費者支援機構関西(以下、KC’s)が家賃債務保証会社(以下、保証会社)のフォーシーズに対し、フォーシーズの家賃債務保証契約に定めた明け渡しについての条項(以下、明け渡し条項)が、消費者契約法10条の「民法第1条第2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものは、無効とする」に該当するとして差し止めを求め訴訟を起こしていた。
明け渡し条項は、2カ月以上の賃料などの滞納に加えて、連絡不通、電気・ガス・水道、郵便物の利用状況から相当期間の利用実績がないと認められ、賃借人が建物を再び使用しない意思が客観的に見て取れるとの条件の下、フォーシーズが、明け渡しがあったとみなせるとした内容。
19年6月の大阪地裁判決では、KC’sの主張を認めたが、21年3月の大阪高裁判決では、逆転。
明け渡し条項は消費者契約法10条に該当しないとし、KC’sの主張を退けたため、KC’sは最高裁に上告していた。

高裁判決覆る

最高裁は決では大阪高裁の判決を覆した。
明け渡し条項が、賃貸借契約の解除が終了していない場合にも適用され得る可能性を指摘。
法律に定める手続きによることなく明け渡しが実施されたのと同様の状態に置かれるのは著しく不当とした。
併せて、フォーシーズの家賃債務保証契約の条項の一つである、3カ月以上滞納した場合には催告なしで賃貸借契約を解除することができるとした内容についても、当事者ではない保証会社が行うことは、消費者である借主の利益を一方的に害するとした。

借主の権利を保護

今回の判決についてはKC’sは「住宅が生活の基盤であることや、適正な手続きの保障を重視した判決。契約の当事者ではない保証会社が、賃貸借契約を無催告解除したり、明け渡しを実力行使したりすることが許されないことを示したものであり、消費者の権利保障の観点から高く評価する」とコメントした。
一方、フォーシーズは「ここまでが長かった。判決が出たからにはその結果に従うだけ。明け渡し条項は大阪地裁の判決後に、契約書から削除しているため、業務に影響はないと考えている」と語った。
最高裁判決の賃貸業界への影響についてKC’sは「裁判当事者であるフォーシーズだけでなく、ほかの保証会社も、同様の契約条項を設けていないかどうか点検し、自主的に改めるべき。機関保証は賃貸住宅の8割で付されているのに、保証事業については告示による任意の登録制しかなく、消費者の権利保障が十分でない。義務的登録制など法律による規制を求めたい」と訴えた。
フォーシーズは「家賃債務保証の利用が高まっていくと考えている」と話した。
同社では、大阪地裁に提訴されたときには、明け渡し条項について実質的な運用は行っていなかった。
ほかの保証会社も、裁判によらない明け渡しや一方的な残置物の処分はほぼ行っていないと考えられるという。
知識のないオーナーが勝手に判断し、残置物処分をしてしまうケースがあるのが業界の課題とフォーシーズではみる。
「借主の権利保障を明示した最高裁判決を知ったオーナーが、自身での滞納への対応にリスクがあると考えるようになる。その結果、法律にのっとった運用を行う保証会社の利用を管理会社や借主に求める意向が増えるのではないか」

家賃滞納時の明け渡しに関するKC’s、フォーシーズ裁判の経緯

2016年10月24日 KC’sがフォーシーズ提訴

KC’sが、フォーシーズに対し、フォーシーズの家賃債務保証契約の18条2項2号(明け渡し条項)が、消費者契約法8条3号または10条に該当するとして大阪地裁に提訴。

2019年6月21日 大阪地裁一審判決

・明け渡し条項についてはKC’sの主張を認める。
・KC’sが問題とした家賃債務保証契約の条項のうち、明け渡し条項を除く条項は妥当としてKC’s敗訴。

2021年3月5日 大阪高裁、控訴審判決

・明け渡し条項については、地裁の判決を覆し、消費者契約に反しないとしてKC’sの主張を退ける。
・KC’sが問題とした家賃債務保証契約の条項のうち、明け渡し条項を除く条項は地裁の判決を妥当としてKC’s敗訴。

2022年12月12日 最高裁判決

明け渡し条項については、高裁の判決を覆し、消費者契約法10条に該当するとして、KC’sの主張を認め、同条項の差し止めを命じる。

※全国賃貸住宅新聞より引用