今秋の社宅需要は、法人からの依頼期間に幅が生じた。
その背景に引っ越しコストを抑えたい企業の要望があるようだ。
小売事業の新規出店増加により、依頼が増えたとの声も上がる。
社宅代行事業者3社に話を聞いた。

前倒しで8月開始

リロケーション・ジャパンによると、2023年秋の社宅代行事業の動向として、依頼件数は22年秋と比べ、依頼件数が5%程度微増したという。
社宅管理代行戸数は約24万5000戸。
22年度の社宅の仲介件数は約6万件、取引先企業数は約1500社だ。
春と秋の制約件数の比率は3対1。
22年秋の社宅依頼と比較し、件数が増加傾向にある業種は医療や福祉関係のほか、建設やインフラ事業、小売事業、情報通信系で5〜10%の伸びだった。
一方、金融機関や証券会社は支店統廃合や事業の効率化推進などにより、依頼は5〜10%縮小した。
同社社長は、「今までは9月に集中していた秋シーズンの依頼が8月から10月上旬ぐらいまで分散した」と話す。
分散の傾向は新型コロナウイルスの感染拡大前の18年ごろから継続している。
引っ越し期間が集中することによる引っ越し費用の高騰、子どもの転校といった家族の問題などで、着任日に幅を設けるようになったことが背景にあるとみる。


製薬、案件大幅減

タイセイ・ハウジーも同じく、秋シーズンは法人から依頼が来る期間が早まったという。
社宅管理代行戸数は約10万戸。
22年度の社宅の仲介件数は約3万5000件で、取引先企業数は787社だ。
4月下旬から10月20日までの依頼件数は微増となった。
20年ごろから秋シーズンは7〜8月に前倒しされている。
23年は、春に人事異動が集中し、秋が微増する傾向だったという。
従来、新卒社員は入社後、3ヶ月から半年の研修を受けてから、部署に配属されるため、7〜9月が依頼の中心だったが、コロナ禍の影響で、今では4,5月に直接部署に配属。
現地でOJT(職場内訓練)、もしくはリモートで研修を行う傾向がある。
その結果、従来は社宅の依頼件数の比率は春と秋で2体1程度だったが、23年には3体1程度になった。
同社の社宅管理戸数の10%を占める製薬会社の異動が大きく減少したのも特徴だ。
コロナ下で、MR(医療情報担当者)が現場へ営業に行くことができず、リモートでの営業が浸透。
事務所の閉鎖も相次ぎ、異動が減少した。
特に外資系ではコロナ前と比べて依頼件数が3〜4割程度となった。
法人本部長は「小売事業の好調でこのマイナスはカバーできた」と話す。
23年は小売事業の新規出店が増加。
新店舗への配属のため異動が増えている。

各社、秋の社宅依頼における変化

リロケーション・ジャパン 秋シーズンが8〜10月上旬に。医療・福祉関係や小売事業などで増加するも、金融機関や証券会社は不調。
タイセイ・ハウジー 秋シーズンが7〜8月に。秋の人事異動が減少し、その分春に偏る。製薬会社の異動が大幅減少するも小売事業で補填。
長谷工ビジネス・プロクシー テレワークから出社になり、異動も復調。取引先企業によっては、社宅規定見直しも検討し始めている。


規定見直しの声

長谷工ビジネスプロクシーでは依頼件数はコロナ前の水準に状況が戻りつつあるという。
今秋の依頼数は21年比、22年比で20〜30%増だ。
5月からのコロナの感染症法上の位置付けが5類に移行したため、在宅勤務から出社に戻す動きが増え、異動自体も復調しているという。
ただし、完全にテレワークを撤廃せず、出社と併用する企業が増えるとみる。
社宅規定の見直しを検討する企業も現れつつある。
賃料がコロナ禍により若干下落するも、22年より回復基調となった。
現在も建材の高騰などで上昇傾向が続いており、企業側では、家賃の低い郊外、専有面積が狭い物件で、規定で定められた住宅補助金額範囲内の物件を探すといった対応を取っている。
これに加えて、賃料規定の見直しを検討し始めている企業が出てきたという。
24年春の異動のニーズはコロナ前の水準に戻ると予想する。
同社の担当者は「24年春の異動は賃料の上昇傾向に加え、トラックドライバーの不足が懸念される。『2024年問題』が課題になる。入居時期に制限のある異動者への対応に留意すべきと考えている」とコメントした。

※全国賃貸住宅新聞より引用