【解説】所有者不明土地対策1/共有制度を見直し[民法改正]

不動産登記簿などを基に調査しても、所有者が判明しない「所有者不明土地」が各地で増加し、不動産の取引や利用を阻害する要因となっている。
この問題を解決するため、先の通常国会で改正法や新法が成立した。

民間研究会の調査によると、全国の所有者不明土地の総面積は約410万haに及び、九州本島の面積を上回るという。先の通常国会で成立した関連法が、これらの土地の有効活用につながることが期待されている。

今回成立した関連法は、(1)共有制度の見直しを中心とした改正民法、(2)相続登記の義務化などを定めた改正不動産登記法、(3)不要な土地を国庫に帰属できる新法の三つに分かれる。
(1)は主に所有者不明土地の利用の円滑化を目的としている。
(2)と(3)は所有者不明土地の発生予防がメインだ。
関連法のほとんどは、2021年4月28日の交付から2年以内に施行される。
ただし相続登記義務など一部の規定については、3年〜5年以内の施行予定となっている。

まずは(1)の民法の改正について、主なポイントを教えていただきたい。

改正の柱は、共有制度の見直しだろう。
相続などを契機に、一つの不動産を複数人で共有するケースはしばしば見られるが、共有者が増えることで、スムーズな管理や利用が難しくなりがちだ。
例えば、改正前の民法では、大規模な改修など、共有物に対して物理的な変更を加える行為を行う場合には、「変更行為」として共有者全員の同意を得る必要があった。
また、共有する道路の舗装。借地借家法の適用のない短期賃借権の設定などの「管理行為」も、他の共有者の同意を得ることなく共有物を使用する共有者がいる場合には、全員の同意が必要と考えられていた。
改正民法ではこれらの要件が緩やかになった。

具体的にどのように変わったのか。

変更行為については、著しい変更を伴わない「軽微な変更」であれば、共有者全員の同意を得なくても、持分価格の過半数で決することができるようになった。
共有物の使用者がいる場合の管理行為も、同じく過半数の同意で行うことが可能となった。

実際の不動産では、共有者の存在や所在が不明で、合意どころか連絡さえとれないケースもある。所在不明の共有者が多数いるような場合には、過半数の同意でさえ得ることが困難だと思うが、そのようなケースについて、今回の改正で何か対策は講じられているのだろうか。

所在不明の共有者がいる場合は、所在のわかる共有者の同意だけを得れば、共有物の変更や管理行為を行えるようになる裁判制度が新設された。
なお、管理行為については、所在はわかるものの管理に関する事項については賛否を明らかにしない共有者がいる場合においても、その共有者以外の共有者の持分の価格の過半数の同意だけを得れば、裁判により共有物の管理行為を行えるようになる制度も新たに設けられた。
具体的には、変更行為や管理行為を希望する共有者の申し立てを受けて、裁判所が公告通知を行い、一定の期間までに異議がなかったとき、非訟事件として裁判による決定が行われる。
決定が確定した後に所在不明の共有者や管理に関する事項について賛否を明らかにしない共有者が現れ、異議を唱えたとしても、その変更行為や管理行為は適法となる。

改正民法は、不動産の実務にどのような影響を与えるだろう。

例えば、一部に所在不明の共有者がいる土地で、再生可能エネルギー発電事業を行う場合を考えてみると、本改正により今まで以上に実務がスムーズになる場合が多いと思う。
例えば、この種の事業では、用地の形質を変更したうえで、施設を設置することが多いが、用地の形質に対する変更が軽微であれば、共有者の過半数の同意で、開発許可の申請が可能になるだろうという意見がある。

共有物の管理にあたっては、管理会社やPM会社などを管理者として選任するケースもある。管理者の選任について、共有者間の同意はどのように規定されているのか。

旧民法では、管理者の選任にあたって、共有者全員の同意が必要なのか、持分の過半数で決することができるのかが明文上、明らかでなかった。
また、選任された管理者の権限や義務についても、具体的な規律が明確ではなかった。
改正民法では、持分の過半数により共有物の管理者の選任・解任ができ、選ばれた管理者は共有物の管理に関する行為を自ら行えることが明確にされた。
これにより管理者は、管理行為のたびに過半数の同意を得る必要がなくなり、円滑な管理につながることが期待できる。

不動産の積極的な活用を考えている共有者の中には、いっそのこと所在が不明な共有者の持分を取得してしまいたいというニーズも強いと思う。旧民法下でこれを実現するためには、裁判による共有物分割などの方法が必要だが、かなり手間がかかる。改正法ではどうか。

共有者の請求により、裁判所の決定で所在不明の共有者の持分を取得したり、一定の条件を満たすことで特定の第三者に持分を譲渡したりできる制度が新設された。
このうち持分の取得については、その持分の時価相当額を供託すれば、他の共有者の同意がなくても単独でできる。
ただし、本制度による供託金額は、裁判所による供託命令後、所在不明の共有者が現れた場合に、争う余地があるとされている。
供託を行った後に、さらに追加の供託金額が必要となる可能性がある点に留意が必要だ。
一方、持分を第三者に譲渡する場合は、他の共有者の持分も含めて、すべての持分をその第三者に譲渡することが条件になる。
つまり所在不明の共有者の持分のみを売却することはできず、共有物である不動産全体を売却する場合に限り、所在が不明な共有者の売却が認められる。
当然、所在が明らかなすべての共有者に対しても、それぞれの持分の売却に合意してもらうことが必要になる。
なお、本制度にhよる決定は、共有物の持分を譲渡する権限を付与するにとどまり、決定によって直ちに共有物の譲渡の効力が生じるわけではない。
実際に共有物の譲渡の効力を生じさせるためには、別途売買契約などを締結する必要があると考えられる。

所在がわからない共有者の持分を取得したり、売却したりできるようになることで、不動産ビジネスの機会が拡大しそうだ。

地方の再開発事業では、用地の共有持分の一部が相続登記未了などのため、活用が困難となるケースもある。
本制度を活用することによって、こうした問題がある程度、解消されることが期待される。
また、不動産の共有持分を取得した事業会社が、その不動産の全持分をSPCに移したいと考えているような場合、すべての共有者からそれぞれの持分を取得することは非常に煩雑だ。
そんなときも一度に共有物全体を移転できる本制度が有用であると思われる。

※日経不動産マーケット情報より引用