賃貸住宅の人気設備でもある「無料インターネット」の需要が変化している。
コロナ禍の影響で通信量が増え、インターネットへの接続不良や通信速度の低下が発生。
入居者からは、無料で使えることよりも、安定した通信環境を享受したいという要望が高まってきた。

通信環境が入居を左右 家主の投資意識に変化

「通信速度が遅い無料インターネットよりも、自身の希望する通信環境が構築できる物件が選ばれている」。
首都圏を中心に個人・法人向けの仲介店舗「お部屋探しCAFE ヘヤギメ!」を22拠点展開するS-FIT(エスフィット:東京都港区)の池田達矢店舗事業部長は、部屋探しにおけるインターネット通信環境への要望が強まっていると語る。
新型コロナウイルスの感染拡大以前よりネット環境への入居希望者の関心は高まっていたが、2020年夏頃に一段と加速した印象だ。
いまでは「来店客の8割からネット関連の質問を受ける」(池田部長)という。
費用を自己負担してでも高速通信に対応できる物件を探したいとの声もある。
総務省が7月に発表した「我が国のインターネットにおけるトラフィックの集計結果」によると、5月時点の国内の固定インターネットにおける通信量が20年5月比で25.6%増加した(下図)。
2年前の同月比較では2倍近くまで上昇したことになる。
動画配信サービスやオンラインゲームの普及に加え、20年の緊急事態宣言発出以降、テレワークやオンライン授業による自宅でのネット利用が飛躍的に上昇したことも要因と考えられる。

公益財団法人日本生産性本部(東京都千代田区)では、企業におけるテレワークの実施率をまとめている。
4月に発表したレポートによると、首都圏1都3県では30.7%、大阪・兵庫では19.2%だった。
いずれも前回調査の1月より微減したものの、20年10月よりは高い水準にあることから一定の企業でテレワークが定着していると見てよさそうだ。
学生のオンライン授業への影響はどうか。
8月某日、インターネットサービスを提供するレジデンシャルインターネット(東京都港区)の竹内敬人社長のもとに、知人の管理会社から電話があった。
この知人の所有物件は大学のキャンパスに近いこともあり、ほとんどの入居者が学生だ。
コロナ禍でオンライン授業が増えたことから、急きょ、回線の敷設工事をしてほしいという依頼が入った。
現状では入居者のニーズに対応すべく、暫定的にモバイルWi-Fiを提供していたが、「モバイルWi-Fiでは通信速度が遅く、入居する学生からオンライン授業が途切れてしまうので、早く高速インターネットを開通してくれいないか」という要望だった。
これまではインターネットを無料で使えることが客付けにおける強みになっていたが、現在は通信の品質が物件の競争力と入居後の満足度に大きく影響している。
竹内社長は、このような状況下で入居者、家主、管理会社の意識も変わりつつあると指摘する。
「インターネットを日常的に使う家主の世代交代とも重なり、賃貸住宅へのインターネット導入案件が確実に増えている。21年の繁忙期に当社に寄せられた問い合わせ件数は、20年比で約1.5倍に増えている」と語る。

※全国賃貸住宅新聞より引用