その1「遺言はこわい!!」

〜知らないうちに遺言書が作成されてしまっていたなんて〜

Q
私は45歳の男性です。十数年前に父が亡くなり、高齢で独り身となった母が気がかりだったため、父の死後は母が住む実家の近くに家族で住んでいます。
20年前に結婚してから実家を離れていた妹がいるのですが、その妹が最近離婚したため、実家に出戻ってきて、母と同居することになりました。妹が母の面倒を見ると言い出してくれた時はとても心強いと思ったのですが、それが問題の始まりでした。妹は何かと母に入れ知恵し、しまいには自分の意のままとなるような遺言書まで書かせてしまっているようです。
私はその遺言書の内容までわかりませんが、私が受け入れられるものではないものと考えています。、もし今の状況で母が亡くなってしまったらと不安でたまらないのですが、その遺言書は有効なものとなってしまうのでしょうか。

A
法的には有効となります。したがって、その遺言書以外に遺言書がなければ、そのとおりに財産を分けることになります。

【解説】
要件を充足した遺言書であれば、法的には有効なものとなってしまいますので、その記載のとおりに財産を分けることになります。そもそも遺言者の想いに反していずれかの相続人に有効な内容で作成されることを防がなければなりません。遺言書は、まさに遺言者の気持ちを表現したものであり、自分の死後、財産をどう分けてほしいかという最終意思が記載されるべきです。
そのため、法的に有効な遺言の作成には、一定の要件を充たすものが作成された場合には、遺言者の意思を反映するものとして扱われることになります。

【対応策】
遺言書は本人が元気なうちは何度でも作成できるので、相続人みんなが納得できる内容に作成し直すことができます。ただし、遺言の撤回は、遺言の方式に従ってなされることが求められています。(民 1022)。
質問者の場合、まずは、率直にお母様や妹さんと話し合い、遺言の内容を共有することを試みるべきかと思います。それができなかった場合、弁護士に相談したり、相続後に遺留分の滅殺請求をすることが考えられます。

その2「遠くの身内も、身内なの?」

〜こんなときだけ身内面してくるなんて〜

Q
私は、62歳の女性です。数ヶ月前に私の夫が病気で亡くなりました。亡くなる前の数年間は看病や付き添いなどで忙しく、また最愛の夫を失うかもしれないという不安の中にいたので、夫の死後のことをあまり深くは考えることができませんでした。ただ、夫の両親と弟は既に亡くなっており、また、私たち夫婦には子供がいませんでしたので、夫の財産は当然に私がすべて相続するものと思っていました。なお、夫は遺言書を特に作成していませんでした。
そんな中、既に死亡している夫の弟(義弟)の息子(甥)から突然連絡があり、自分にも相続権があると主張をしてきたのです。そんなことは予想もしていなかったし、夫は義弟とは仲が良くなく、生前も弟家族とはほぼ疎遠の状態でした。夫の財産ではありますが、夫婦で貯めた財産が弟家族に少しでもいってしまうことが我慢ができません。
夫の財産は、私がすべて相続することはできないのでしょうか。

A
本事例では、甥にも相続権があります。兄弟姉妹が法定相続人となる場合、兄弟姉妹合計で1/4の相続権があります。弟が亡くなっているので、甥が代襲相続します。

【解説】
子供がいない夫婦では、夫が亡くなれば妻が夫の財産すべてを相続すると考えられがちですが、必ずしもそうではありません。子供がいない場合には、配偶者だけではなく親も法定相続人になり、さらには、親も既に亡くなっている場合には兄弟姉妹が法定相続人になります。
本ケースでは、夫の両親、弟とも既に亡くなっていたために、相続人となるのは妻であるあなただけだと考えてしまったようですが、兄弟が亡くなっている場合にはその子供(甥)が相続人になります。これを「代襲相続」と呼んでいます。したがって、甥には財産の1/4を主張する権利が生じています。

【対応策】
相続人全員(本ケースでは、あなたと甥)の合意があれば、必ずしも法定相続割合により分割をする必要はありませんので、あなたが財産すべてを相続するためには、甥に相続放棄をしてもらうしかありません。ただ、素直に相続放棄をしてくれるとも限りません。
夫は弟家族とは疎遠であったということなので、夫もあなたに財産すべてを遺したかったはずです。夫の生前中に、財産をすべてあなたに遺す旨の遺言書を準備していれば、相続放棄のお願いなどせずともあなたが財産すべてを相続することがかないました(兄弟姉妹の場合には遺留分も生じません)。

安心相続相談所ほか編(2014)「相続の不安をなくす生前対策とその進め方」古谷野公認会計士事務所監修、日本法令.より引用