相続対策を考える場合の事前準備としてどのようなことを行えばよいのでしょうか?
所有財産の全体像を把握するために、「財産の棚卸し」を行っておきます。

財産の棚卸しの重要性

適切な相続対策を行うためには、所有財産の全体像を把握する必要があります。このため、まずは財産の棚卸しが不可欠です。
財産の棚卸しは、具体的には、預貯金のほか、不動産や株式などの現物資産の時価や相続税評価額を把握し、これらの財産の評価額を基に相続税の試算を行うことになります。
財産の棚卸しに際しては、「マイナスの財産」である借入金についても残高や返済金等を確認します。
相続人にとって、親の借入金の存在はプラスの財産以上に気になるものです。さらに、所有する財産が生み出す収入や、財産にかかる経費についても確認します。財産に係る収入や経費は、将来の財産の増減に関わるからです。そうして財産の動向を見渡してみれば、自ずと次に何をすればよいかが見えてくるはずです。

土地活用の見極め

財産の棚卸しにおいて、財産が土地である場合には、その土地の立地等からみて賃貸物件の敷地などとして活用できるものなのか、活用できない土地なのかを見極めることが大切です。
土地や建物は預貯金とは違って管理に手間や費用がかかりますので、自分の住む物件か賃貸物件で安定収入の見込めるものでないと、相続人は相続したがらないのが最近の実情です。相続人に土地や建物を遺したい場合は、生前に隣地との境界確定や測量をするなど相続しやすいように準備をしておくことが大事です。
また、土地を活用するかどうかによって、税務上の取扱いも大きな違いが生じます。例えば、土地の上に賃貸住宅を建てた場合には、その土地に係る固定資産税や都市計画税が軽減されます。
また活用して収入を生んでいる土地であれば、支払った固定資産税などの額は、所得税の計算上必要経費になります。しかし、活用ができないため収入がない土地の場合には、その土地に係る固定資産税などを支払ったとしても、その額は所得税の計算上必要経費になりません。活用ができない土地は、税務上の取扱いも不利になります。

201605-1

相続対策の三原則のうち前月号では資産分割対策について述べましたが、今月号では納税資金対策と節税対策について述べていきます。
納税資金の蓄積のため、収益性の高い賃貸物件に買い替える方法や財産を売却して金融資産に換える方法があります。

納税資金対策とは

納税資金対策は、相続税をスムーズに納税するための対策です。
納税資金対策のうち、生前の対策としては、所有不動産を収益性の高い賃貸物件に買い替えて納税資金を蓄積する方法や、不要な物件を売却し、流動性の高い金融資産に換える方法があります。
相続開始後の対策としては、相続財産を売却して納税資金を調達する方法があります。この場合、相続税の申告期限(相続の開始があったことを知った日の翌日から10ヶ月を経過する日)から3年以内に相続により取得した財産を売却したときは、その財産の売却に係る譲渡取得の計算上、納付した相続税額のうち一定額を取得費に加算する特例が設けられています。

生前対策 ・収益性の高い賃貸物件い買い替え
・不要な物件を売却
相続開始後対策 ・相続財産を売却
「財産の相続税評価額を下げる」方法と「相続税の対象財産を減少させる」方法が考えられます。

相続税の節税対策には、相続税の対象となる財産の相続税評価額を引き下げる方法と、親族への贈与により相続税の対象となる財産そのものを減少させる方法の2つがあります。
財産の相続税評価額を引き下げる方法としては、一般に時価よりも評価額が小さくなる不動産の購入等がしばしば選択されます。借入金により賃貸不動産を購入したり建築したりする方法が代表的なものです。
親族への財産の生前贈与の方法は、相続税の節税対策として広く行われています。このような親族間の財産の贈与は、その実態が外部からわかりにくく、贈与の事実を巡って税務当局とのトラブルが生じやすいので注意が必要です。さらに、財産の贈与につき、一般的な贈与税の課税制度(暦年課税制度)の適用を受ける場合、贈与した人が贈与後3年以内に死亡し、その贈与を受けた人が贈与をした人からの相続又は遺贈により財産を取得したときは、贈与を受けた人の相続税の計算上、贈与を受けた財産の贈与時の評価額が加算されます。贈与した人の相続の開始時期は予定できないので、将来相続人となる子への贈与を行う場合には、早い時期から贈与をスタートすることがポイントになります。